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【イベントレポート】JST-RISTEX CAREFILオープンセミナー/YCARP4周年記念イベント 外国ルーツのヤングケアラー支援・ケアラー支援――言語のケアを考える

  • 執筆者の写真: YCARP
    YCARP
  • 4 日前
  • 読了時間: 11分

2025年9月22日に「JST-RISTEX CAREFILオープンセミナー/YCARP4周年記念イベント 外国ルーツのヤングケアラー支援・ケアラー支援――言語のケアを考える」を会場(キャンパスプラザ京都)とオンラインでのハイブリッド形式で開催しました。当日は48名(対面21名、オンライン27名)の方にご参加いただきました。

 CAREFIL プロジェクト では、ケアラーの葛藤に寄り添いながら、多様なケアラーを支えるしくみづくりを目指しています。京都市のケアラー支援条例では、はじめて、「言語のケア」が明文化されました。ライフステージに限らずその人のバックグラウンドも踏まえながら多角的な視点で支援を検討していく必要があると考えています。

 今回のオープンセミナーでは「言語のケア」に注目して3名の講師を招き、移民ルーツのケアラー支援について考えるシンポジウムを開催しました。


【講師】

安里和晃氏 (京都大学大学院文学研究科准教授)

移民政策、介護・家事労働、福祉レジームの国際比較を専門とし、東アジア・東南アジアを中心に、人の国際移動とケアの仕組みに関する実証研究を行う。外国人労働者や移民の包摂に関する政策提言や移民の伴走支援にも携わり、2014年にフィリピン大統領賞を受賞。


アジズ・アフメッド氏 (特定非営利活動法人共に暮らす 代表理事)

パキスタン出身。9歳で日本に移住。

外国にルーツを持つヤングケアラーとしての経験を活かし、特定非営利活動法人共に暮らすの代表理事として、外国ルーツのこども・家庭支援や多文化共生のまちづくりに取り組んでいる。行政・教育現場などでの講演・研修活動も行っている。


ウィジェナヤケ・ジョン・ライアン氏(特定非営利活動法人glolabコーディネーター)

大阪生まれ大阪育ちの、スリランカとフィリピンにルーツを持つミックス/移民2世で、元ヤングケアラー/現若者ケアラー。

現在、立命館大学産業社会学部に在学しながら、人権・差別問題についてのゲストスピーカー活動やNPOでの嘱託業務、移民ルーツの居場所を作るプロジェクトなどに関わる。


左から、斎藤真緒(立命館大学産業社会学部教授)/アジズ・アフメッド氏/安里和晃氏/ウィジェナヤケ・ジョン・ライアン氏
左から、斎藤真緒(立命館大学産業社会学部教授)/アジズ・アフメッド氏/安里和晃氏/ウィジェナヤケ・ジョン・ライアン氏

【当日のお話の概要】

アジズさんのお話

 アジズさんからは、ご自身の経験談やともくらの活動内容を交えながら、移民ルーツのケアラーに必要な支援についてご講演いただきました。

 来日当初は言葉や文字はわからない状態だった。その中でも担任の先生が美術の先生だったので、絵を褒めてくれることが嬉しかった。その先生のおかげで1年後には日本語の文章を書けるようになり、将来の夢は学校の先生になった。

 日本の学校の文化やルールを両親は知らないので、家以外に相談できる場所がなく何をすればいいかがわからないし、日本の学校の文化を知らない親と相談してもとりあってくれない教員の間で、次第にいろんなことが周りに相談できなくなっていった。

 学校生活で一番大変だったのは宗教面が影響する給食や家庭科の授業だった。イスラム教なので食べられないものが多く、調理実習では、調理はするものの食べることができないため、授業中耐えることが多かった。教師の宗教面への無理解もあり相談できなかった。修学旅行の際もコッペパンなどを自分で用意し、食事の時間は違う場所でやりすごしみんなが食べ終わったタイミングで会場に戻り食べていた。こうした経験から食事の時は友達の「おいしい」に共感できなかった。

 学習面でも日本語が聞き取れず、問題も日本語のためテストの点数は良くなかった。肌が違う、言葉が違うなどといったことはみんなとは違うという考えで自己完結していたし、それ以前にただ過ごすことが大変だと感じていた。

 そんななかでもパソコンが得意だったので中学校ではパソコン部や図書委員という自分の輝ける場所や落ち着く居場所が見つかった。外国籍でも日本の高校に進学ができることが分かると国際学科のある高校に進学し、得意の英語を伸ばしていくことで次第に自信がついていった。また、高校に入ると今までわからなかった日本語も理解できるようになり学習の面白さや勉強の仕方がわかってきた。 大学進学を目指したが思うようにいかず就職したが、大学の進学チャンスがあり働きながら大学に進学した。大学ではプレゼンをしたり、群馬の限界集落を学生が復興させていくプロジェクトに参加したりといろいろな発見があった。そのなかでコロナが到来しやることがなくなる。そうした状況の中で誰かのサポートをできるのではないかと考え、得意の動画制作をおこなう合同会社を設立した。アフターコロナ企画で無料の動画を制作したことに始まり、いくつかのプロジェクトに参加しながら「共に暮らすプロジェクト」を立ち上げた。この時期にヤングケアラーという言葉にも出会い、自分の困ってきた経験は、他の外国ルーツの子どもたちも困っている可能性があることを考え、日本の小学校の持ち物など解説動画を多言語で作っていった。この活動は、メディアにもとりあげられた。そのなかで話した「ことばのヤングケアラー」がピックアップされ話題になった。

 こうした活動のなかで自分のマイノリティ性に気づき、外国ルーツの家庭がどうなっているかということについて知るきっかけをつくっている。子どもたちはまだ大人が聞き取れていない考えがたくさんある。その声や考えをきくためには信頼関係を築いていくことが必要。

 卒業後は、外国籍の親と教師の間のコミュニケーションの齟齬があった際に通訳するボランティアをするなかで、地域や当事者を巻き込んでいくことの大切さを考え、同じ地域で「共に暮らす仲間」であるという意味をこめて「ともくら」を作った。

 現在は、子どもへの直接的支援だけではなく周囲の大人への支援も大切だと考え、教員向けの研修をしたり親向けの高校の進学説明会などをしたりしている。昨年からは、高校生活に必要な費用に関する経済面の見通しをもってもらうために、小学生を対象にした高校進学の説明会をはじめた。こうしたライフプランを一緒に考えながら家庭をサポートすることも大切。

 外国人児童生徒を取り巻く環境としては文化的資本の不足に目を向け、言語だけではなく社会の中にある学習や文化、対話等の壁からおこる子どもたちのライフステージの様々な悩みに関心を向けることが必要。こうした困難を乗り越えるためには「理解のある親」「親しい友人」「情報をもっている先生」などの環境を整えていくことが欠かせない。

 ともくらでは「情報支援」「居場所づくり」「学習支援」という3つの軸を設定している。同じ地域で暮らしていくなかでそこから出されずにその枠組みのなかに包摂していくことを考えていくことが大切。例えば、「居場所づくり」のなかでおこなっているともくら食堂では、外国ルーツの子どもたちが難しい「職を通してつながる」ことを経験してもらうために月に1回いろいろな国の料理が食べられる。どんな人が来てもここには色々な選択肢があるという食堂であり、地域の子ども食堂などに広げていきたい。他にも子どもたちだけではなく保護者同士の交流の場として「ともくら学習塾」も開催している。(詳細はともくらHPをご覧ください https://tomokura.org/

アジズさんの講話の様子
アジズさんの講話の様子

安里さんのお話

 安里さんからは、移民に繋がる子どものヤングケアラー問題が、言語の課題だけではなく、文化や制度の構造に注目しながらヤングケアラー支援について考えていく必要性をお話いただきました。

 現在、外国人が増えているということが話題にあがるが、出入国管理は国家の裁量権にあるので、外国人が増えているというのは厳密には間違いであり、人口減少社会のなかで政治的判断で外国人人口を増やしているというのが正しい。

 ビザ制度が変わったこともあり、0歳児人口の増加・家族帯同の増加などにより、特にベトナムやネパールなどの東南アジアの国の未成年人口が増加している。

 日本は、「外国人はルールを守らない」というが、ドイツのような移民向けのオリエンテーションもなく、社会統合政策が脆弱な側面がある。

 外国人は政治的権利が与えられないといったように日本人にくらべ付与されている権利の範囲が狭い。また、外国人間でも付与される権利は異なっており、在留資格上は様々なカテゴリーに分かれており、職業選択や家族帯同、永住権などでそれぞれ違いがある。こうした違いが生活のあり方、就労や教育などに影響する。

 ヤングケアラーという概念は、子どもが保護・権利の主体であるということを前提とする近代福祉国家モデルから派生している概念といえる。子どもの権利条約、児童労働に関するILO条約などを通して、近代福祉国家的こども観は世界に浸透しているものの、途上国など児童の生産的役割が高い地域や東アジアの儒教的思想などのもとでは、児童労働は自然なものとされているところもある。

移民の子どもの中には、働くことが当然であるという考えを内面化して日本で働いていることもある。多文化社会日本ではこのように子ども観も多様であり、子ども観や価値観を共有していく場やプロセスが必要になっている。


●教育からの排除

 日本では、子どもの権利条約を批准しており、「国籍に関わりなく教育機会を確保する」教育機会確保法を定めているものの、実際には、外国人の不就学は存在している。非正規滞在者(「不法残留者」)の子は、公務員の通報義務により教育にアクセスするのが困難になっている。

 日本人(全体)の9割が全日制高校に進学するのに対して、日本語指導が必要な高校生は僅か5割であり、日本語指導が必要な生徒は定時制高校へと導かれるシステムが構築されている。定時制は全日制高校のような進学も想定していないため、高校進学の時点で人生の分岐点になってしまっている。

(※その後、安里さんが支援に関わられた、いくつかの事例を紹介していただき、それを踏まえながら政策提言をしていただきました)

 短期的なものとしては、学校現場での在留資格の基礎的な知識を学ぶ研修や来日者に対するオリエンテーションの制度化がある。

長期的なものとしては、「子どものを保護・権利の主体として捉え、入管の論理ではなく子どもの権利条約を実行化する制度設計が必要」であることや、「介護保険等の既存の制度は直接的にヤングケアラーを支援することを目的としていないため、親が破産・病気になっても教育が受けられるといった教育権をベースにした在留資格を創設することなどを検討すること」が挙げられる。

安里さんの講話の様子
安里さんの講話の様子

ライアンさんのお話

 誤解を招かないように伝えておくと、外国籍の人に参政権は認められていないが、政治運動をする権利は最高裁判決で認められている。移民ルーツの人たちが政治的なことを言ってはいけないわけではないということは知っておいてほしい。

 非正規滞在(不法滞在)外国人という言葉を差別的に使うことはやめてほしい。社会の問題、受け入れる側の責任として捉えてほしい。言葉のヤングケアラーの背景には、社会システムの不整備を問う視点があることに気づいてほしい。行政が担い切れていないからこそヤングケアラーの子たちが担わざるを得ないことを分かってほしい。

 「外国人/日本人」という二項対立で考えるのは非現実的であり、血統主義に基づいて行政サービスの利用に制限をかけることはおかしいと認識する必要がある。入管法は序列をつくって人権を制限するシステムを作り出しているので一刻も早く変えてほしい。国際人権規約等の条約にのっとり、多文化共生法などの法整備を進めていくことを早急に検討してほしい。

 文化資本への注目をしながら、勉強面の格差の原因を考えてほしい。

 同じ移民ルーツ・外国ルーツの当事者でも抱えているニーズは違いがある。モデルマイノリティになる圧力をかけないように留意すべき。いろんなルーツ、バックグラウンドのマイノリティが差別を受けずに活躍する社会をつくっていくことが今の日本社会に求められているのではないか。

 国籍、在留資格といったものを条件にして奨学金の貸与や教育を受ける機会を選別することは差別にあたる。本人のキャリアだけではなく社会にとってプラスであるはずなのにそれができていない社会であることを国や行政、自治体の人たちは認識しておいてほしい。


ライアンさんの講話の様子
ライアンさんの講話の様子

【参加者感想文(一部抜粋)】

単なる通訳を担うだけではないという具体的な精神的負担がどのようなものか、多くの気づきをいただきました。今後、国籍関係なく共生が必要となる日本社会の中で、情勢をどのような観点で見ると良いかも大変参考になりました。本日は率直な思いをお聞かせいただき、ありがとうございました。


・ケアラー支援について初学者なのですが、多くの示唆をいただきました。

特に、「通訳は高度な感情労働」という言葉が印象的でした。通訳作業には、単に言葉を訳すということだけではなく、外部から見えにくい精神的なケアや負担があり、それを子どもが担わざるを得ない状況に置かれるということに気付かされました。

また、イベント全体を通して、相互に尊重し合うことを大切にされているように感じ、居心地の良い空間だったように感じます。

大変ありがとうございました。


・興味深い報告でした。当事者+支援者、支援者+研究者という報告のバランスも良かったです。ただ、海外ルーツの人(子どもや若者)を巡る問題と、ケアラーを巡る問題との両方に論点が広がったこともあり、時間が足りなかったのが残念でした。


・外国人のヤングケアラー状態やその要因について、知らないことが多かったです。入管制度や文化的な背景、社会資源の少なさなど、非常に課題が多いと思いました。


・教育現場で「ことばのヤングケアラー」を身近に経験してきたからこそ、今日のお話はよく分かりました。当事者の気持ちを分かりやすく伝えていただき、改めて教師側の言葉がけが大切なことを学ばせていただきました。

ありがとうございました。


次回のオープンセミナーについてはこちらからご確認ください。

※12月7日(日)申込締切)



 
 
 

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