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  • 執筆者の写真YCARP

【イベントレポート】第21回定例ミーティング(2024年7月20日)

 

話題提供:東山哲也さん

テーマ:「非行少年とヤングケアラーについて考える―少年鑑別所の調査報告より」

 

〇経歴

・心理職として法務省で採用後、少年鑑別所や刑務所等で勤務

・現在は東京矯正管区少年矯正第二課長(関東甲信越静岡の少年鑑別所の取りまとめ役)

 

※今回の報告内容は、東山さんの勤務経験、調査結果を踏まえてのお話であり、必ずしも法務省の公式見解ではない旨、ご了承下さい。

 

○少年鑑別所について

・法務省所管の施設(全国に52カ所(分所8カ所を含む))

・家庭裁判所の決定で送致された少年等を一定期間収容し、その人に応じた観護処遇を実施するとともに、鑑別を行う

・地域社会における非行及び犯罪の防止に関する援助を行う(地域援助

 (かなり幅広い内容の相談援助を行っており、今回のテーマは地域援助が中心)

 

1.調査結果の報告

○調査のきっかけ

少年鑑別所での勤務経験のなかで出会ってきた子ども達の中には、ステップファミリーで、連れ子として半ば邪魔者のような扱いを受ける中、障害のある幼い弟妹の世話をすることで家族の中に居場所を作ってきた少年や、母子二人きりの家庭で、アルコール依存症の母親の愚痴聞きや世話で振り回されつつも、頼られていることに喜びを見いだしていた少年ヤングケアラーに類した生い立ちの子どもが少なからずいたなという実感がある(事例に関する記載は本質を損なわない範囲で加工等した架空のもの)。また、地域でのヤングケアラーへの関心の高さや勤務していた自治体の取り組み(埼玉県や北海道のケアラー支援条例)もあり、実態を把握する調査をしようと試みた。

 

○調査の概要

・調査期間:令和5年6月~12月

・調査対象:全国の七つの少年鑑別所在所者のうち調査の協力に同意した者

・今回は中間報告(対象者105名)という位置づけ。最終報告は日本矯正教育学会第60回大会(本年10月)にて発表予定。

 

・調査方法:入所早期に配付し、自記式(調査対象者本人の記入)で実施

・調査項目:「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」(以下「全国調査」)をベースに、

北海道や大阪府等の自治体調査の独自項目を一部活用。

・調査結果

①ケア経験の有無:現にしている15.2%、過去の経験を含むと21.0%が家族をケア

 ⇒全国調査(全日制高校2年生4.1%)と比較して、割合が高くなっている

 

②現在又は過去に家族のケアを経験したと回答した22名の詳細な回答

ケア対象:兄弟姉妹59.0%母親50.0%(全国調査では、きょうだい44.3%、父母29.6%)

 ⇒非行少年の家庭環境の影響として、母子家庭やステップファミリー(幼い異父弟妹がいる場合が多い)が多い

 

③兄弟姉妹のケアの特徴

・ケアの理由:幼い77.0%、発達障害30.8%

(全国調査では:幼い70.6%、精神疾患・依存症1.5%)

・ケア内容:兄弟姉妹の世話69.2%、感情面のサポート61.5%、見守り53.8%、家事46.2%(全国調査では:家事56.6%、見守り53.7%、世話43.4%)

 

④母親のケアの特徴

・ケアの理由:精神疾患36.4%依存症27.3%、その他(多忙、自傷行為等)27.3%

      (全国調査では:その他17.6%、精神疾患・依存症14.3%)

・ケア内容:家計を助ける81.8%、家事63.6%、感情面のサポート63.6%

      (全国調査では:家事68.1%、外出付き添い26.4%、感情面のサポート17.6%)

 

○調査結果のまとめ

・ケアの理由:精神疾患や依存症、発達障害等の割合が高い

→高齢や身体障害等と比較して、外部から見えにくい。知られるのが恥ずかしい等の感情になりやすく、相談しづらい可能性

・ケア内容:家計を支える、感情面のサポート等の割合が高い

→家事や介護等と比較してケアだと認識しづらい。中卒・高校中退で働き始める非行少年は、働いて家計を支える事を、自他から当然視されやすい。

⇒ますますケアラーだと気づかれ(気づき)にくい。つらくても支援を求めにくい者が多い可能性。

⇒ヤングケアラーは支援につながりにくいと言われるが、非行少年(に類した特徴のある子ども)は特にこの点に留意が必要。

 

○特徴的な回答

※以下、非行少年の結果・全国調査の結果の比較である。

・ケアを一緒にしている人:自分のみ→36.4%・11.4%

・世話の頻度:ほぼ毎日→57.1%・47.6%

・平日に世話に費やす時間:3~7時間未満→55.0%・24.4%

 ※全国調査の最多は3時間未満35.8%

 ※休日は3時間以上が84.2%(北海道調査24.2%)

・世話をしているためにやりたいけれどできていないこと

 ・学校や仕事に行きたいけれど行けない13.6%・1.0%

 ・学校・仕事を遅刻・早退してしまう18.2%・2.9%

 ・進路の変更を考えざるを得ない・進路を変更した9.1%・5.5%

 ・自分の自由になる時間が取れない27.3%・16.6%

 ・特にない40.9%・52.1%

 ・世話に対する思い:精神的につらい→31.8%・19.9%

            やりがい→31.8%・(北海道調査15.7%)

 ・世話について相談した経験:ない→95.5%・64.2%

  ・理由:誰かに相談するほどの悩みではない→54.5%・65.0%

      相談しても状況が変わるとは思わない→31.8・22.8%

      相談できる人が身近にいない→18.2%・9.1%

      家族のことを知られたくない→18.2%・9.1%

・学校や周りの大人に助けて欲しいこと、必要な支援

 ・進路等の相談→27.3%・17.3%

 ・学習等の相談→18.2%・18.9%

 ・同じ境遇の人と話したい→13.6%(大阪府調R4:2.6%)

・自身がヤングケアラーに当てはまる(全体)→9.7%・2.3%

・自身がヤングケアラーに当てはまる(ケア経験あり)→45.5%・15.0%

 

○まとめ

より困難又は支援の乏しい状況でケアをしている可能性

そのなかで疲弊や不満を感じている可能性

進路等の相談、ピアサポート的な関わりなど特有の援助ニーズがある可能性

ケアにやりがいを感じている者がいることに要配慮

 →支援の押しつけや、かわいそうと見る事が子どもを傷つけ、支援から遠ざけることになるリスクがある一方で、否認・抑圧の可能性や、結果的に孤立を深めて悪循環に陥るおそれがあることの両面を意識し、一人一人の「やりがい」の意味を見極めて対応する必要がある。

 

 

 

2.少年鑑別所の業務紹介

○最近の非行少年の特徴

・非行件数は大幅に減少:全国の少年鑑別所入所者はH15には23,063→R4には4,658件

・非行態様から見られる特徴:単独非行化

 →「共犯者のある非行」の割合が減少

 →「不良集団」に所属している少年の割合が減少

 

・家庭環境、生活状況等から見られる特徴

 →実父母率の低下(実母のみ、ステップファミリーが増加)

 →被害体験や低学歴、ヤングケアラー的側面がある少年

 

・資質面から見られる特徴:「知的障害」や「発達障害」を有する少年が増加

→非社会的な傾向。他人とうまく関われない少年が増加

 ※「知的障害」や「発達障害」は非行の原因ではなく、いわゆる二次障害により非行化している点に注意(立ち直りに際しては、特性を踏まえた指導・支援が必要)

 

⇒「生きづらさ」、環境の過酷さのあらわれとしての非行

⇒非行からの卒業が難しくなっている。

 表現型は違えど、地域で困っている人たちと背景にある生きづらさは同じ

 

○少年鑑別所の業務

・鑑別

・観護処遇

・地域援助

 

○観護処遇

・通常4週間(観護措置の場合)

 →少年の前情報はほとんどない中で入所。

  鑑別や24時間の行動観察を通じて特性を見極め、これに応じた丁寧な働きかけを行う。

・審判に向けた準備、規則正しい生活

→社会内のいろいろな生きづらさや困難な環境から切り離され、渦中から離れて、これまでを振り返るような働き掛けを受けることの持つ効果⇒ヤングケアラー支援にも繋がる部分があると考えている。

 

○鑑別

①その人がどんな人なのか

②どうして非行をしたのか

→狭義の動機だけでなく、非行の意味や真のニーズを明らかにする。

③(①②を踏まえて)どうしたら立ち直れるのか

→面接、心理検査、行動観察、医学的検査・診察等を総合して、上記3点を明らかにしていく

→鑑別の考え方は汎用性が高く、地域援助でも応用している。

 

○地域援助

・少年鑑別所法第131条にて規定

・特徴

 ・「法務少年支援センター」の名称を用いる

  →相談しやすいように、という面もあり、地域援助については、少年鑑別所の名前ではなく、この名称を使用

 ・高い専門性を有する

 ・無料

 ・年齢や法的地位を問わない(法務「少年」支援センターだが、「成人」も対応可)

・個人援助:地域の一般の方(少年、保護者、その他)からの相談に対する援助

  開設当初(H27)よりも3.7倍に相談件数が増加している

・機関等援助

  非行及び犯罪の防止に関する機関・団体の求めに対する援助(開設時より3.6倍)

 

○地域援助の相談内容

・相談内容(個人援助):家からのお金の持ち出しや万引き等の初期的な非行や、家庭内暴力などの相談が多い。深夜徘徊など、相談内容によっては、ケアの負担が影響しているケースもある。

・相談内容(機関等援助):学校や福祉機関等から、支援している対象者の乱暴な言動や盗み、性的な問題行動等について相談を受けることが多い。例えば、アディクション系の問題行動について支援したケースの背景にケアにまつわる問題がある場合などがある。

 

○地域援助の支援内容

・面接・心理検査:面接や心理検査で対象者の特性や問題行動のメカニズムを明らかにすることはもちろん、本人、保護者、支援者に役立つように、分かりやすくフィードバックすることに強みがある。カウンセリング的な面接も行える。

・ワークブック指導:全国統一のワークブック(暴力、性、窃盗、薬物、交友、ルール、SOS、就労支援)を活用するなどして指導的な関わりも実施。

・研修・講演:生徒や先生、関係機関職員、保護者等を対象とした非行や犯罪に関する出前授業(法教育)や研修・講演など

・各種会議への出席を通してのコンサルテーション的関与やネットワークへの参画

→地域援助の強み:支援者の支援、ときほぐす支援、息の長い支援

 

・支援に当たるのは、心理職と教育系の法務教官

→非行少年や犯罪者に対応してきた経験を活かす事ができる。

 表現型こそ違えど、最近の非行少年・犯罪者が抱える生きづらさと地域で困っている方の抱える生きづらさに共通する部分がある。

 

 ○地域援助としてヤングケアラー支援に関わる場合に対応できそうなこと

・「発見」の観点での協力

 ヤングケアラーは気づかれにくく、支援につながりにくい。

→表面の問題だけでなく、背景要因まで丁寧に見てケースを理解する力が活きる。

 

・「良い聞き手」となること

 「かわいそうな子」でも、「頑張っている偉い子」でも、「ケアラー」でもなく、一人の人間としての自分と向き合ってほしいというヤングケアラーのニーズ

→少年と一人の人として向き合って話を聞き、その人の「真のニーズ」を見いだすことを得意としている我々の力が活きる。

 

・進路選択に資する支援

 ヤングケアラーは進路選択に対する支援ニーズがある方が多い。

→面接や検査を通じて特性や適性を見極め、本人や家族、支援者に分かりやすくフィードバックすることは、我々が最も得意としている支援の一つ。

 

・人生の語り直しに寄り添う

 ケア体験を含むこれまでの人生を語り直すことが「自分の人生を生きること」につながる。

→人生を振り返り、意味付け直し、立ち直りにつなげることは、少年院や少年鑑別所の職員が日頃行っている働き掛けそのものであり、力になれる。

 

・支援者の支援

 非行傾向のあるヤングケアラーの支援

→支援者の負担も大きい。支援者の支援という法務少年支援センターの強みが活きる。

 

○法務少年支援センターホームページ

 法務少年支援センターについてより詳しく知りたい場合、具体的に相談ニーズがある場合等は、下記を参照

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